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12/7 コンゴ民主共和国における発熱性疾患

[2024.12.07]

 対岸の火事のような日本から遠い国で発生している感染症に対して皆さんはどのような印象を持つでしょうか?おそらくCOVIDが発生する前は「現地の風土病が現地の人たちの間で蔓延しているので対岸では影響はないだろう」と思っていた方が多かったのではないかと推測しますが、COVIDのパンデミックが起こってからは海外で発生している感染症に敏感になった方も多いのではないでしょうか。このような事態が発生したときに私たちはどのように情報を入手していけばよいのでしょうか。「私ならどうするか」ということで現在進行中で調べていることをお知らせしたいと思います。

①発生している国の特徴を知る

 問題の症例が確認されているのはコンゴ民主共和国(コンゴ民)でアフリカ中央部に位置し、以前はザイールと呼ばれエボラウイルス病の最初の流行地でもあります。エボラウイルス病といえば2014年にギニア、リベリア、シエラレオネの西アフリカ3か国を発端としたアウトブレイクが起こり、先進国でも患者が確認されたことで日本でも検疫体制が強化されました。面積は234.5万平方キロメートル(日本の約6倍)、人口は1億230万人(世界銀行2023年)で200以上の部族からなる共和制国家です(コンゴ共和国基礎データ|外務省)。人口増加率はアフリカ諸国の間ではナイジェリアに次いで大きく、銅やコバルト、ダイヤモンドなど鉱物資源にも恵まれており、今後長期にわたりプレゼンスが増していくことは明らかな国です(人口増加にみるアフリカ市場の可能性と課題 | 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ)。1億人近い人口を抱えていますが、人口ピラミッドをみると0-4歳が最も多く、年齢層で3%以上を占めるのは35歳未満の若年層です(人口: コンゴ民主共和国 2024 - PopulationPyramid.net

②これまでにわかっていること・わかっていないことを知る

本記事を含む複数のメディア情報からは以下のことが明記されています。
✔ 主な症状は高熱やせき、激しい頭痛などと確認されている
✔ 300人以上の患者が発生し少なくとも79人が死亡した
✔ 死者の大半は15-18歳の若年層
✔ 医薬品不足で治療を受けられず自宅で死亡する人が多い
✔ 原因は今のところ不明
✔ コンゴを中心にエムポックス感染が拡大している

BBCニュースNHKワールドでも記事の内容はほぼ同様です。12/3のロイター通信によれば死者は143名との報告です。一方で原因も含めわかっていないことの方が多く、この先どうなるのかが気になるところです。以下のことは知りたい情報です。
✔ 貧血がみられるとの情報は検査によって判明しているのか?
検査による貧血であれば貧血をきたす感染症の鑑別が上位に挙がってきますし、その程度がわかれば出血による貧血であるかどうかも推測できます。

✔ 発生している地域の特徴はあるのか?
発生している地域は首都のキンシャサから400kmほど離れた地域のようです。エボラウイルス病の拡大には感染した死者を埋葬する際に素手で血液体液を扱うなど感染源との濃厚接触が多く見られたとの情報がありました。今回も若年者に多い理由を考える際に、思春期の特徴的な免疫状態を踏まえるだけではなく、特徴的な行動や風俗習慣、住居環境、ヒト以外の動物との接触状況などがあるかどうかは知っておきたい情報です。年齢層が若干異なりますが、2022年には小児を中心とした原因不明の肝炎の発生があったことは記憶に新しいと思います。「原因不明の小児急性肝炎に関する第2回全国実態調査および病原体検索の研究」への調査協力のお願い|公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY

これらより以下は私の推測です。
✔ 日本とは異なり、基本的な感染対策がなされているとは考え難く、治療を受けられずに死亡する人が多いことから、抗菌薬などの治療ができるのであれば救命できた可能性もあります。
✔ 感染症以外の原因として有害物質や食材なども否定はできませんが、インフルエンザ様の呼吸器症状が中心であることから何らかの感染症である可能性が高いのではないかと推測します。
✔ 若年層といっても乳幼児ではなく10歳代後半ということで、初感染による重篤化(マラリアなどで該当)というよりは年齢特異的な変化による重篤化ではないかと推測します。
✔ 貧血の原因が出血によるものと考えられるのであればウイルス性出血熱(ラッサ熱やクリミアコンゴ出血熱など)の可能性もあるかもしれません。出血熱とは言っても必ずしも出血がみられるわけではなくインフルエンザ様症状もあります。

いずれにしても現段階では未知なことが多く、COVIDの時にもありましたが明確ではないこと、憶測を真実のように伝えることは控えるべきです。現段階では、発生地域は首都から離れたところであり、可能であるならば国内に拡散しないように人の往来などは制限すべきと考えます。疫学専門家の派遣があるようですので、患者の症状などを正確に把握し、検体入手から病原体解析の結果が待たれるところでしょう。

<日経COMEMO 2024/12/07 投稿記事>

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