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腸チフス・パラチフス(チフス性疾患)Enteric fever

チフス性疾患の病原体 

 腸チフスはパラチフスと合わせてチフス性疾患と総称されます。病原体はサルモネラ菌属であるチフス菌 、パラチフスA菌で、ヒトの糞便で汚染された食物や水、病原体保有者からの経口感染で発症します。胆石を持つ患者さんでは症状のない胆嚢内保菌者となり、便中に排菌することによって感染源となる可能性があります。世界的には衛生水準の低い地域、特に南アジア、東南アジア地域で常時流行がみられています。日本での報告数は年間20-30例程度ですが、ほとんどは海外からの輸入例です。 しかしながら渡航歴のない患者や食中毒事例も散見されており、国内における無症状保菌者からの伝播も考慮する必要があります。

チフス性疾患の症状と経過 

 一般的な臨床経過は、通常7-14日程度の潜伏期間を経て高熱で発症します。チフス性疾患の三つの特徴である比較的徐脈(高熱の割に脈拍が少ない)、バラ疹(バラの花のような特徴的な皮疹)、脾腫(脾臓が腫れる)のすべてが出現する頻度は高くはなく、下痢や腹痛などの消化器症状も目立たないこともあります。すなわち、輸入感染症として代表的なマラリアやデング熱などと初期症状が類似するので、渡航先や潜伏期間を考慮したうえで常に鑑別をする必要があります。

チフス性疾患の検査所見 

 血液検査所見にも特異的なものはありませんが、軽度の肝機能異常、LDH値上昇、CRP値上昇、好酸球消失所見などがみられ、CTや超音波検査で脾腫や回盲部の腫脹所見があればチフス性疾患の可能性があります。

チフス性疾患の治療と経過 

 正確な診断、適切な抗菌薬治療が必要とされることから、輸入感染症診療経験のある感染症専門医のもとでの管理が望まれます。発症早期に適切な抗菌薬治療を行えば通常は後遺症なく治癒しますが、重症例は意識障害や腸穿孔などの合併症がみられることがあるので、注意深い経過観察が必要です。治療薬はニューキノロン系抗菌薬が第一選択薬として認識されていますが、アジア地域ではニューキノロン低感受性菌が高頻度で分離されており、該当地域での感染が疑われる場合には、第三世代セファロスポリン系抗菌薬の点滴やアジスロマイシンの内服を選択します。適切な抗菌薬を使用していても解熱まで数日を要することや、治療終了後も再発や排菌の可能性があることを考慮する必要があります。

 

<バラ疹(Rose spot)>

 

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